次期決算に向けてのマツダの戦略

足元経済がぐらついている中国ではあるが、長期的に見れば、今後も世界で一番クルマが売れるマーケットであることは間違いない。景気は必ず循環するので、ここは強風が吹き止むのを待てば海路の日和があるだろう。


 問題は成長率が鈍化して、パイの奪い合いになっている北米マーケットでどう戦うかだ。マツダがブランド価値経営を北米で確立するためにやらなければならないことは大きく2つある。1つは販売店改革だ。


 マツダの次世代ブランド店への刷新計画に対し、目標とする300店舗のうちすでに265店舗が次世代ブランドへの投資を決定しており、これに関しては順調な推移であることをマツダは強調している。


 2つめはパワートレーンの刷新だ。この10年間、厳しくなるCO2規制への対応として、北米では多くのメーカーがダウンサイジングターボへのシフトを進めてきた。しかし19年の企業平均燃費規制(CAFE)が求める1キロメートル当たり130グラムを分岐点として、ダウンサイジングターボでは規制がクリアできないことがほぼはっきりしてきた。CO2排出量はほぼ燃費と比例するので、効率の良い低燃費システムなしには、それが達成できなくなりつつある。実際20年の95グラム規制をクリアするには、最低限マイルドハイブリッドを持たない限り不可能に近い。


 マツダはそのアプローチを「SKYACTIV-X」と48ボルト・マイルドハイブリッドの合わせ技でクリアしようとしている。ちなみにSKYACTIV-Xは非常に複雑な技術なので、ここでは簡単にまとめられない。17年8月の過去記事を参照していただきたい。


 さて肝心なのは、もう4気筒エンジンによるダウンサイジングターボではダメだということが分かった段階で、北米向けの高付加価値商品のために何を用意するかだ。


 元々、大排気量志向の強い米国では、4気筒のダウンサイジングターボが歓迎されていたとは言い難い。本来ならV6やV8のユニットが欲しいところだが、これまでそれらの形式で企業平均燃費規制(CAFE)をクリアする方法が確立できていなかった。


 そうした諸問題をクリアし、北米でのブランドイメージを向上させるために、マツダは縦置き直列6気筒のSKYACTIV-XとSKYACTIV-Dをラインアップに加えようとしている。「4気筒は安物」というアメリカ人に対してブランド価値向上を狙うなら6気筒は当然の帰結だ。縦置き6気筒となれば、自ずとFRレイアウトにしなければならないので、シャシーをスモールとラージの2つに分けることになる。デミオ、Mazda3(旧アクセラ)、CX-3と、今年度中に追加されるCX-30がFFのスモールシャシー、CX5、アテンザ、CX-8がFRのラージシャシーを使う。


 マツダは元来、日本、北米、欧州、中国、その他のマーケットバランスがそれぞれほぼ20%とバランスが良かったが、今、北米への依存が加速しつつある。逆にいえば北米でのブランド価値向上に失敗すると非常に厳しい。それは今回の決算から見てもはっきりしている。


 最後にマツダの次年度以降の対策を整理しよう。車両側では、デザイン、パワートレーンの両面でテコ入れを進める。ブランド価値向上につながる6気筒を軸に、FRレイアウトを採用して商品性を高める。今売れ筋であるSUVにCX-5や北米用のCX-9など強みのある商品を持っている点では明るい要素も十分ある。これらが6気筒FR化される数年後には米国の中で、マツダのイメージはかなり変わるのではないかと思う。


 そして、販売店側では、CIと残価の維持向上プロジェクトがどれだけ実を結ぶのかが問われている。値引き販売から価値販売へのシフトだとマツダは強調する。


 筆者の目から見て、マツダが無策で手をこまねいているようには見えない。むしろ打つべき手は着実に打っているのだが、これらの戦略が予定通り進むのかどうか、それはまだ分からない。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190513-00000013-zdn_mkt-bus_all&p=3より