「日ごろから思っていたこと」

 「玉の湯」は京都市中京区押小路通御幸町西入ルにある。戦後間もない時期、西出さんの祖父が明治ごろから営業していた銭湯を買い取り、今に至っているという。一帯は京都市役所にほど近く、古い町家が多く残っており、「玉の湯」も古き良き下町の銭湯のにおいを漂わせている。

 張り紙を掲示したのは5月11日。西出さんは「日ごろから思っていたことを字にしたんです」と文面に込めた意図を説明し始めた。

 「玉の湯」は歴史が長いだけに、古くから利用している地元のなじみ客が多い。今やそれぞれの家に風呂があるのは当たり前のようになったが、それでも「玉の湯」に毎日訪れる人は多いという。

 「体を洗いに来るというよりも、常連さん同士でのおしゃべりを楽しみに来ているんでしょう。自分の家にいるような感覚になるようです」(西出さん)。

 それ自体は悪いことではないが、たまに新規のお客が来ると、何かとその振る舞いに神経をとがらせる常連が一部にいるという。特に若い人は銭湯を利用した経験が少ないため、常連にとっては当たり前に思えるマナーも心得ていない場合がある。たとえば、浴槽に入る前にしっかり「かかり湯」をしなかったり、自分の洗面器をカランの前に置いたまま長時間入浴したり、髪の長い女性が結い上げないまま入浴して湯に漬けたり、といった行動だ。そんなとき、つい厳しい口調で注意したり、叱責したりしてしまうことがあるのだという。不快に思った新規のお客が、すぐに帰ってしまったこともあった。

 西出さんは「これは銭湯経営者にとって共通の悩みなんです。若い人にも気持ちよく利用してもらわないと、新しい常連客になってもらえない」と張り紙が苦渋の判断だったことを打ち明ける。加えて、「モラルやマナーを叱って教えるのはどうかと思います。優しく声をかければ、相手も受け入れやすいし、次からは気をつけるでしょう」と述べ、常連が銭湯初心者を温かい目で見守ってくれるようにと望む。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190513-00010005-kyt-lifeより